障害のある方の移動手段について、これまで「福祉タクシー」や「JR」について取り上げてきました。
3回目となる今回は、「バス」をテーマに、肢体障害・視覚障害当事者の方からお話をお聞きしました。
バス利用で思うこと 〜肢体障害者の立場から〜
自立生活センター ぶるーむ
代表 後郷 法文
いまから約30年前、当たり前だと思ってた西鉄バスに乗れなくなったとき、電動車いすのゴゴウ少年は障害者と健常者との大きな壁を目の当たりにし、絶望したとかしなかったとか。
さて、時は過ぎ、平成も終わって時代は令和。障害者を取り巻く環境も随分変わりました。障害は社会(環境)にあるとされ、法律も整備され、バリアフリー環境も遅まきながら整いつつある今日この頃。市内を走る路線バスも随分スロープ付きのものが増えました。出始めの頃は台数も少なく、日常の足としてはまったく使えないものでした。
スロープ付きバスは無作為に運行されて、何日の、何時何分のバスがスロープ付きなのか、事前にはわからないん
です。なので当日に西鉄バスのお客様センターに電話して乗りたいバスにスロープが付いているか聞くんですが、しばら
く待たされたあとに(22・5秒ごとに10円取られる!)、「こちらではわかりませんので各営業所にご自分でお問い合せください」と三つ四つ電話番号を伝えられるという、なかなかの作業を求められたりするわけです。
で、順番に電話していって、お目当てのバスを所有する営業所を見つけて訊ねると、「そのバスにはスロープはついてないです」とすげない返事が帰ってくるというオチ、しょっちゅう。数日前にお願いすれば、乗りたいバスにスロープ付きを配車してくれるらしいですが、たまの外出ならまだしも、日常の足としては面倒くさくてやってられません。
こんな状態もいつの間にかスロープ付きバスの普及とともに改善されつつあります。車両もノンステップバスや低床バスなど車いすでも乗りやすいものが出てきています(新車両は標準装備)。西鉄バスナビというネットサービスを使えば、なんと、何時のどのバスにスロープが付いているのかも事前にケータイからわかっちゃうんです。
とはいえ、障害のない人たちと同じくらい西鉄バスは便利とまではいきません。たとえば西鉄の高速バスは電動車いすでは乗車できません。高速バスの車両の入り口が前方にあり、そこには階段しかないからです。折り畳める手動車いすなら折りたたんで車いすのみ車両横のトランクルームに預けられるんですが(それでも本人が座席まで移動できる必要がある)、電動車いすは大きくて重くて折り畳めないので、乗車を断られます。
しかし、最近よく見る簡易型の電動車いすなら乗れるんじゃないか?折り畳めるし。ていうか、乗れていたんですが、ある時、突然乗せられないと断られたことがありました。理由は電動車いすは乗せられないと内規にあるからと。なんでも
バッテリーから発火の怖れがあると。なるほど危険です。すぐにケータイやノートパソコンの持ち込みも禁止しましょ
う!と提案しましたら、じつは女性運転士が増えてて、女性の力では重い電動車いすはトランクルームに詰めないのが理由だと。じゃあ、本当に詰めないか、検証しましょうとなったんですが、最初は重い!無理!と言ってた女性運転士
さんでしたが、前輪だけを浮かせて荷台にひっかけ、後輪を転がすように押し上げる基本的なやり方を口頭で教えただけで、難なくできるようになりました。要は内規が古いことと、障害者への理解やサポート教育がなかったことがバリアだったわけです。のちに内規は改められ、現在は簡易型電動車いすなら高速バスでも乗せてくれます。 障害者への理解やサポートの研修は各営業所で独自にされているみたいですが、お客様役の健常者が車いすに乗ってみても、目隠ししてみても本当の障害者が感じるものとは違います。すべての運転士さんが自信を持ってサポートできるように、西鉄バスには障害当事者を交えた研修をしっかりお願いしたいですね。
バスを利用して困ること 〜視覚障害者の立場から〜
福岡県視覚障害者友好協会
高嵜 和子
私は現在全盲で、外出の際は白杖を使用しています。普段、筑豊電鉄やJRを利用することが多く、バスに乗る機会はそれほどありません。乗り慣れてないこともあり、目的のバスにスムーズに乗車できるか不安になり緊張します。行き先案内が聞こえなかったりすることなどが大きな理由です。それも状況は様々で、バス停によっては、2、3台のバスがつながって停車し、乗降が終えたとみてそれぞれの停車位置から同時に走り去ってゆくことがあります。こうした場合、まず前のバスの車外放送を聞いていますと、後の方のバスからの放送が聞こえないために乗り損ねたり、乗り間違えて、結局タクシーを使う羽目になるケースもあります。
臨機に動くことのできない乗客のことを考え、バスは必ず定位置で乗降すべきだと思います。行先表示を視認できない視覚障害者にとって、更に困った状況が存在します。それは、バス停周辺住民からの騒音苦情を受けて、車外放送(外マイク)を禁止しているバス停があることです。
西鉄によると、車外放送(外マイク)禁止のバス停は、福岡県内全域で483箇所、その内北九州市が57・福岡市内が410・筑後・久留米方面が16にものぼるといいます。(同社2017年調査)そしてその後も増加傾向にあると聞きます。当該バス停において、白杖や盲導犬を連れている人を見かけた時は、運転手が肉声で放送するという取り決めになっていますが、なかなか徹底されません。視覚障害者には、音や音声による情報が必要不可欠ですが、バスに限らず継続的な課題となっています。
次に乗車してからのことですが、うまくカードリーダーにバスカードをタッチできないと慌てますし、運転手に空いている席に座ってくださいと言われ、どぎまぎさせられることもあります。空席がわかりませんし、降車用押しボタン、つり革など、すぐに手に触れることができるとは限らず、手すりにつかまって立っていることも少なくありません。車内放送も、音量が小さすぎる場合など、降りるバス停を聞き逃さないようにと気が気ではありません。このようにバスに乗り込んでから降りるまで、神経を使うことになります。
最後に連節バスのことですが、バスを待っていてこんなに来ないのはおかしいと思い、前にいたと思う人に「まだバスは来ていませんか?」と尋ねたところ誰もいませんでした。待っている時には、並んでくださいと注意されましたが、「バスが来ましたよ」とは教えてくれませんでした。始発ですのでしばらく停車していると思いますし、私がその連節バスの特快に乗るということを知りながら、バス停に置き去りになっている様子を見ても、誰も声をかけてくれなかったことはショックでした。大型バスのような音がしていたのは分かりましたが、車外放送は全く聞こえませんでした。
私の初乗りは、その後の福祉団体の方々と連節バス乗車体験を行った8月19日でした。その時は、ガイド者がいて無事に乗ることができましたが、やはり車外放送が聞こえず、スピーカーの位置が離れているのか、まだその原因は定かではありません。
西鉄に停車中の連節バスの見学会をお願いしてみましたが、フル可動しているので実施できないとのことでした。
連節バスの導入には、乗務員の減少が背景にあるようです。バス利用の困難な点ばかり上げましたが、バスナビをうまく利用することや親切な方の対応で助かることもあります。いずれにしても、案内放送の問題や人員の減少は、様々な面で視覚障害者にとって利用しづらく深刻な課題となっています。
障害者差別解消法や条例を生かし、安全で快適な利用を目指して引き続き取り組んでいかなければと思います。
~番外編~ 「福祉車両レンタカー」
皆さんは「レンタカー」を使ったことはありますか?
“親戚が帰ってきて自分の車では足りない…”
“旅行先でレンタカーを借りて目的地まで…”などなど、あらゆる場面で便利なサービスですよね。
そんな「レンタカー」ですが、“福祉車両”のレンタルも行われているのをご存知ですか?
福祉車両とは、スロープが付いていて車いすに乗ったまま乗り降りができたり、シートが回転して乗り降りが楽にできるなど身体が不自由な障害のある方やご高齢の方にも使いやすいように工夫された車両のことです。
各レンタカー会社で取り扱いされているので、お出かけの際に活用されてみてはいかがでしょうか?