ありの「スポーツどうなん?」
第58回 「母の卒業」
北九州市障害者スポーツセンター
アレアス 所 長 有延 忠剛
高齢ドライバーによる事故が後を絶たない。人生の終盤に、自分がけがをするだけでなく、例えば最悪の事態となる人身死亡事故を起こしたとしたら、命を奪ってしまった側も奪われた側も、その苦しみは筆舌に尽くしがたいものとなる。
私は現在、母と二人暮らし。
母の日々の楽しみは、毎日の整骨院通いだ。そこでのスタッフや他の患者との会話がとにかく楽しいらしい。さもありなん。整骨院から帰宅した瞬間はいつも活き活きとしている。ただ、自宅は山間にあり、通院や買い物などの外出には自家用車が欠かせない。高齢ドライバーでもある母は、1月に86歳となった。
身内の立場からしても、人生の終盤で、交通事故の加害者という苦しみを背負わせたくない。
私は事故のニュースを見るたび、母に運転免許の返納を幾度となく促してきた。
だが、山間生活の不便さ故にそう簡単に手放すわけにもいかなかった。
ある日、母が返納にほんの少し前向きな反応を示した。すかさずそのタイミングで返納の利点を並べ立て、一気に説得。返納日も決め、親戚に対しても宣言させた。
そして、その日は訪れた。交通の便は悪いが、幸い小型の市バスがわずかだが一日に何本か走っている。そのバスを使えば整骨院通いも何とか続けられる。一抹の寂しさを感じる母であったが、その日、免許の返納に付き合った。
翌日、初めて市バスに乗り、整骨院へ通った母。バスを使うことで必然的にウォーキングも行うこととなった。
「どうやった?」との私の問いに答える母の活き活きとした表情に、新たに爽快感が加わったように見えた。