ありの「スポーツどうなん?」
第54回「隠れた逸材」
北九州市障害者スポーツセンターアレアス
所長 有延 忠剛
今年の夏、7年ぶりに身体障害者野球チーム「北九州フュ―チャーズ」の監督に復帰し、再びチームの指揮をとることになった。選手の中に、重度の脳性まひの障がいがあるKくんがいる。
彼は、今から8年前に入会した。
当時、まだあどけない中学生だった彼は、お父さんに連れられグラウンドへやってきた。立位歩行は可能であるが、とても不安定な状態だった。
「さすがに軟式野球は厳しいかな」と正直感じながらも、「野球が好き。活動したい。」というKくんの強い思いに共感し、入会を同意した。
「バットを振ってみようか。」との声かけに、彼はバットスイングして見せたが、まさに転倒寸前。キャッチボールにおいては、言わずもがなである。
そのKくんが今年の全国大会予選で、何とMVPを獲得した。試合の結果を左右する重要な場面で彼の打席となり、タイムリーヒットを放ったのである。
しかも2度にわたって。
この8年間の彼の成長には目を見張るものがあった。
私の想定をはるかに超えた彼の野球技術の向上は、彼が抱える障がい自体が大きく軽減したようにさえ感じられるほどであった。
野球経験のある方にはご理解いただけると思うが、簡単に言うと速い球を緩いスイングで打ち返すことができる技術を彼は身に付けることができたのだ。細かな説明は省くが、これはある意味プロ野球選手もなかなかまねのできない技術なのである。
メンバー全員が揃っていなかったとはいえ、2試合目での彼の打順は6番に上がった。
Kくん、クリーンアップまで、あと、もう一歩!!